[ブログ]【第9回 漢方歳時記・十月号 柿と秋のからだ】

2025/09/25

朝夕の風に冷たさがまじり、空の色もどこか深く澄んできました。十月は、秋がゆっくりと深まっていく季節。
庭先では、柿の実が色づきはじめています。夏には青く固かった果実が、いつのまにかふっくらと赤くなり、やわらかく甘く熟していく様子に秋の深まりを感じます。

柿は、古くから日本人の食卓に親しまれてきた果物です。東洋医学では、その性質を「寒」とし、熱を冷まし、身体を潤す作用があるとされています。
たとえば、秋の乾いた空気で喉がいがらっぽいとき、熟れた甘柿を口にすると、喉もこころも穏やかに潤うような気がします。また、二日酔いの際に柿を食べるとよいとされるのも、柿に清熱・解酒のはたらきがあるためです。

一方で、柿は体を冷やす性質が強いため、冷えやすい人や胃腸の弱い人には注意が必要です。
そのまま食べるだけでなく、昔から干し柿として保存されてきたのは、味の濃縮だけでなく、薬性の変化も意識されていたのかもしれません。

干し柿は、長く秋の日差しを浴びながら、水分を減らし、甘みを深めていくうちに、薬性も変化していきます。
生柿のような寒性は和らぎ、「平」あるいは「微温」となり、滋養作用が高まります。脾や肺を補い、体力の衰えた人やご高齢の方、産後の回復期などにもやさしく働く、まさに秋の養生果です。
若者は硬めの生柿を好み、年寄りは熟した干し柿を食す。
かの句「柿食えば鐘が鳴る法隆寺」にもあるように、柿の甘みがひととき、静かな心のゆらぎを呼び起こしてくれることがあります。

同じ柿でも、熟し方や加工の仕方によって身体へのはたらきが変わっていく――これはまさに、漢方的な「食の知恵」そのものです。
何を食べるかだけでなく、どう食べるか、どのように取り入れるかによって、食は薬にもなり、時に毒にもなりうるのです。

今、目の前にある柿が教えてくれるのは、季節とともにある身体の変化、そして、時間を味方につけるという知恵なのかもしれません。
秋の実りをいただきながら、自分のからだの声にもそっと耳を傾けてみたいものです。