[ブログ]【第2回 漢方歳時記・端午の節句と菖蒲湯】
2025/04/25
五月五日は「端午の節句」。古くは「五」の重なるこの日を不浄を祓う節目とし、邪気を避ける風習が受け継がれてきました。現代では「こどもの日」として定着していますが、その背景には東洋の自然観や医学思想が息づいています。
この時期は季節の変わり目でもあり、気温や湿度の変化に加えて、心身のバランスが崩れやすい時期でもあります。特に春から初夏へと移る「春土用」から「立夏」にかけては、五行で「土」や「火」に関係する脾や心の不調が現れやすく、疲労感、不眠、情緒不安などが生じやすくなります。
そこで古くから用いられてきたのが「菖蒲湯」です。端午の節句には、菖蒲や蓬(ヨモギ)を軒に吊るしたり、菖蒲を湯に浮かべて入浴する習慣があります。菖蒲はその独特の芳香とともに、身体を温め、湿邪を払うとされ、漢方では「石菖蒲(せきしょうぶ)」として知られています。石菖蒲は芳香開竅薬に分類され、頭をすっきりとさせ、精神の安定を助ける働きがあるとされます。とくに「清心安神(せいしんあんじん)」の作用により、不眠や思考力の低下、集中力の欠如などに用いられ、現代でいう「脳の疲れ」にも応用されています。
またこの頃、青梅が店頭に並び始めます。青梅はそのままでは毒性がありますが、梅酒や梅ジュース、梅干し、梅肉エキスなどに加工することで、胃腸の働きを整えたり、夏バテを防ぐ滋養食品へと変化します。漢方でも烏梅(うばい)という形で利用され、止渇、収斂、寄生虫の駆除などに応用されます。
五月の節目に、季節の恵みである菖蒲や青梅を生活に取り入れることは、身体と心の調和を保つ養生の知恵です。行事の由来を知ることで、伝統の中に潜む東洋医学の叡智を感じることができます。慌ただしい日々の中でも、ほんのひととき、香り高い菖蒲湯に浸かり、梅ジュースをいただいて心と身体を整える時間を持ちたいものです。