[ブログ]【第6回 漢方歳時記・地蔵盆と季節の養生】
2025/07/25
盛夏の熱気がなお残る八月、夕暮れの風にふと涼の気配が漂いはじめます。町角には赤いよだれかけをまとったお地蔵さまが祀られ、子どもたちが手を合わせ、願いが静かに空へと運ばれます。
地蔵盆――大阪の夏を象徴する風習のひとつであり、子どもたちの無事と成長を祈る日でもあります。揺れる提灯の灯りのなか、地域がひとつになる夕暮れの光景は、どこか懐かしく、心をやわらかくしてくれます。
けれども、身体の中にはなお湿熱の名残があり、冷たいものや疲労が重く脾胃を損ねています。東洋医学では「長夏に脾を病む」とされ、この時期はとりわけ消化器の調整が大切です。
脾胃は後天の生命力の源。ここが弱れば、どれほど良い食も、気力に変わることができません。
この季節、養生の膳には――冬瓜、苦瓜、ハトムギ、緑豆などを取り入れて、体に溜まった湿をさばき、胃腸の働きを助けましょう。冷たい飲み物ではなく、陳皮を浮かべた白湯や、薬味を加えた粥で、じんわり脾を温めます。
漢方では「藿香正気散」がこの時期にふさわしい処方です。湿熱を去り、脾胃の巡りを整え、倦怠、吐き気、胃もたれなどの夏の疲れを静かに癒します。また、炎熱の中でのスポーツで熱中症の危険がある場合、塩分、水分摂取とともに石膏という生薬を含む白虎加人参湯が身体にこもった熱を冷まし体温中枢の異常から身を守ってくれます。
地蔵盆という祈りの時間。灯籠の光に照らされるお地蔵さまの前で、子どもたちが笑い、大人たちが見守り、お年寄りはお互いの無事を確認し合う。――その営みそのものが、“養生”であり、大阪人の知恵といえます。
蝉の声が遠のき、虫の音が夜を包み始める頃、私たちのからだも、そっと秋の準備を始めています。冷飲食の取り過ぎに注意して、胃腸の働きを守りながら、あと少し続く猛暑を乗り切りましょう。