[ブログ]『第1回 漢方歳時記 - 桜をめぐる 花・葉・皮の知られざる力』

2025/04/08

 春の訪れを告げる桜も見頃を終え、葉桜の季節となりました。桜というと、その美しい花ばかりが注目されますが、実は漢方の世界においても桜は古くから重要な役割を担っています。

まず、桜の幹の皮は「桜皮(おうひ)」と呼ばれ、古来より薬用として利用されてきました。桜皮は主に湿疹や痒み、じんましんなど、皮膚のトラブルに対して用いられます。桜皮には抗炎症作用や鎮痒作用があり、炎症を鎮めて痒みを抑える働きを持っています。桜皮を煎じて湿布にしたり、入浴剤として用いることで、皮膚の症状を和らげることができます。

また、桜の葉にも興味深い特徴があります。桜餅を包むために使用される桜の葉は、その独特な芳香が魅力です。この香りの正体はクマリンという成分で、実は抗菌作用やリラックス効果が知られています。食べ物として楽しむだけではなく、民間療法では桜の葉を乾燥させてお茶にしたり、入浴剤にしたりして、精神を落ち着かせる目的で使用されることもあります。

さらに、桜には「桜湯(さくらゆ)」といった風習もあり、これは塩漬けにした桜の花を湯に浮かべて楽しむものです。結婚式などのお祝いの席で振る舞われることが多く、香りと見た目の華やかさで人々の心を和ませます。桜湯には身体を温め、リラックスさせる作用があるといわれ、昔から春先の冷えや心の緊張をほぐすために利用されてきました。

このように、桜は鑑賞の対象としてだけではなく、生活に根付いた薬用植物としての側面も持っています。桜皮のような生薬としての活用から、葉や花を使った食文化や民間療法まで、さまざまな形で私たちの暮らしを支えているのです。

春の終わりに、ただ花の美しさだけではなく、桜の持つ多様な魅力や効能にも目を向けてみるのはいかがでしょうか。自然がもたらす恵みを感じながら、健やかな季節の移り変わりを楽しみたいものです。