[ブログ]【第4回 漢方歳時記・盛夏の陽気と心を潤す養生】

2025/06/20

七月、蝉しぐれが朝を告げ、陽は天に満ち、草木は色濃く繁る――まさに「火旺(かおう)」の季節。暦は小暑から大暑へと移り、盛夏の陽気が人の内側にも影響を及ぼします。東洋医学では「夏は心に属す」とされ、心(しん)を健やかに保つことが、この時期の養生の鍵とされます。

心は、血を巡らせ、精神(神)を宿す臓。盛夏の気候は、心に熱をこもらせ「心火上炎(しんかじょうえん)」を招きます。不眠、動悸、焦燥、口の渇き、舌の先の紅みなどは、心の疲れがあらわれたしるしです。

また、連日の暑さとともに汗をかき続けることで、「津液(しんえき)」――すなわち身体の潤い――が損なわれ、「気陰両虚(きいんりょうきょ)」という疲労と脱水のような状態になりやすくなります。食欲不振、倦怠感、めまいなど、夏バテの典型的な症状です。

ここで役立つのが、「清暑益気湯(せいしょえっきとう)」という処方。人参、黄耆、麦門冬、五味子、竹葉、荷葉などを配合し、夏の熱邪を払い、気と潤いを同時に補ってくれます。もともとは『温病条弁』に由来する古方で、まさに「暑邪と気虚」に対応する夏の妙薬といえるでしょう。

「夏三月、此謂蕃秀。天地氣交、萬物華實。…養長之道、無厭於日、使志無怒、使華英成秀、使氣得泄。」
――『黄帝内経・素問』四氣調神大論より

(夏の三ヶ月は、万物が華やかに盛んとなる時期である。太陽を厭わず、怒りを避け、心を安らかに保ち、気を巡らせることが養生の道である。)

まさにこの言葉のとおり、夏は陽気を受け入れつつ、心を平穏に保ち、身体を潤すことが大切です。

食卓にも養生の知恵を取り入れましょう。スイカ、きゅうり、トマト、苦瓜、蓮の実、百合根、麦茶などは、体を涼しませ潤いを補います。ただし、冷やしすぎは脾胃(消化系)を損ねるため、常温に近い飲食を心がけましょう。

日中は短く昼寝をとり、夜は涼やかな寝具で深い眠りを。七夕には軒先に短冊を揺らし、夜風に吹かれながら静かに星を眺めてみる――そんな穏やかなひとときも、また心を潤す養生の一部です。

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