[ブログ]新型コロナウイルス感染症について

2020/05/11

 昨年12月に中国武漢で流行した新型コロナウイルスの感染は、春節を迎えてまたたくまに世界187カ国に広がり感染者は400万人、死者は30万人に届こうとしています。

 我が国における感染者は1万5千人、死者は600人を超えています。(現実にはより多くの方がすでに感染していると思われます。)

 未知のウイルスによる感染の拡大、パンデミックは多くの映画でも取り上げられて常に恐れられてきましたが、それがこのような形で現実になろうとは考えてはいなかったのではないでしょうか。

 『小品方』という5世紀の医方書に「上医は国を治し、中医は民を治し、下医は病を治す」という格言があります。人の命をもっともたくさん奪うのは戦争ですが、今回のような感染症によるパンデミックにおいても、政治のありかたが人の命を守るのに重要な要素だと思われます。コロナウイルスの流行に対する各国の対応はいろいろでした。スウェーデンのように完全封鎖を発令しない国、アウトブレイク(感染爆発)を封じ込めるための対策を積極的に行った国。ドイツでは感染者の隔離、社会的距離、学校閉鎖、公共イベントの中止をおこない、スウェーデンが3万人の死者を出したのに対し、6000人の死者にとどまり、人口に対する死者の比率を減らすことに成功しました。また休業者に対する経済的支援も迅速でした。さらに韓国ではPCR検査を徹底的におこない、それによりみかけの感染者数は一時増加しましたが、収束のスピードを早めました。台湾はいち早く外国人の入国をブロックし、有能な人材を適所に配置し、みごとな成果をあげました。

 わが国においては、初動が遅れ、封鎖のスピードも経済支援も後手後手。検査数の少なさなど感染者の減少がゆるやかで、いまだゴールが見えないなど批判される点は多いのですが、どの国においても本当のゴールには時間がかかると私は考えています。そうした中でわが国(日本)に関して言えば、死者数の少なさにおいては様々な要因があるにせよ、現在の時点では幸運なことといえるでしょう。

 さて医学の世界においては、レムデシビル、アビガン、イベルメクチン、クロロキン、フサン、シクレソニドなどたくさんの治療薬が試されています。そのような中、レムデシビルが重症者の治療薬として認可されました。ワクチンの開発には時間がかかりますが、今ある薬を有効に組み合わせてウイルスに立ち向かう必要があります。日本発の治療薬であるアビガン、イベルメクチンの早期の認可を強く希望します。

 新型コロナウイルス感染の治療において重要なのは以下の三点です。
①ウイルスそのものによる肺炎
②免疫反応の過剰による組織破壊
③凝固能の亢進により血が固まりやすくなり、脳梗塞や心筋梗塞を合併すること。

 抗ウイルス作用においてはレムデシビル、アビガン、イベルメクチン、ウイルスの細胞膜への進入防止にはフサン、過剰な免疫反応にはシクレソニドや他のステロイド吸入やアクテムラの注射剤、凝固能の亢進には抗凝固剤が期待されます。発病の早期からこれらの転機を予想して治療を開始することが何より重要だと考えます。

 私の専門である漢方治療について述べたいと思います。漢方は抗菌、抗ウイルスという点については西洋医学に劣ります。一方で生体の治癒反応を高めるという点においては、すぐれている面があります。インフルエンザに抗ウイルス剤を使わなくても麻黄湯など、治癒反応を高める処方を病態に応じて投与して治してきたのです。

 予防という観点においては、漢方には感染防御に対する免疫能を高める作用があり、補中益気湯や人参養栄湯といった免疫能を高める薬を飲んで、感染を予防するという効果が期待されます。抗ウイルス作用が期待できる生薬もあります。またコロナウイルスにおいて重病となる患者さんの特徴として、肥満した男性が多いとも言われ、このような患者さんは高血圧や糖尿病などの合併症をもっている場合も多く、もともと血液が粘り血流が悪くなっており、凝固能の亢進により脳梗塞や心筋梗塞を合併する危険があるのです。このような病態は東洋医学では痰飲瘀血体質といわれ、あらかじめ血の巡りをよくする漢方を服用しておくことが食事療法、運動療法とともに望まれます。

 コロナウイルスの治療を考える上では、参考にすべきはSARSの知見です。私は2004年SARSが流行した広州の病院に見学に行ったことがあります。SARSもコロナウイルスで、当時は今以上に有効な治療がなく、致死率が高く、多くの人が命を失いました。広州は中医学の盛んなところで、人民の中医に対する信頼も厚く、鄧鉄涛先生という老中医の指導のもと、初期段階から若い中医師も積極的に治療にかかわりました。その結果、西洋医学のみで治療するよりも漢方を併用するほうが治療成績がよいということが判明しました。

 そこでわかった臨床的特徴について述べます。SARSも新型コロナウイルス感染症も初期の状態から身体が重く、だるいという特徴があります。また下痢、食欲不振といった消化器症状がみられることもありました。これは「湿邪」によるものといわれ、身体の中の水の流れが停滞していることを示しています。東洋医学ではできるだけ早く身体の表面から邪(ウイルス)を発散させて治したのですが、コロナウイルスは早い時期から身体の中に入り込み「湿邪」として停滞します。そこで発表(体から発散させる)だけでなく湿邪をとりのぞく治療を同時に行うことが必要となります。今回、新型肺炎の治療においてもこの経験は生かされ、藿香生気散や麻杏甘石湯のように、湿邪とともにウイルスを体表から駆逐する治療とともに、間質の炎症や水滞を取り除く柴苓湯が標準治療として取り入れられています。柴苓湯は「和」の方剤といわれ、正気を守りつつ炎症をおさえ、過剰な免疫反応を抑制する作用もあります。すなわち重症化の危険をおさえるキードラッグになると考えています。

 またウイルスを攻撃する強い生薬は、身体の元気を損なう危険もあるため、身体の正気(治癒反応)を傷めないことに重きを置いて治療にあたることが大事です。

 コロナウイルスとの戦いはまだまだ続きます。またこれからは医学的理由以外に経済的理由によって命が奪われることも増えてくると思われます。しかし困難な時こそ、人は助け合い這い上がってきました。社会的距離は保っても心の距離は離さずに、今すべきことをしていきたいと思います。