[ブログ]【第10回 漢方歳時記・十一月号 空を仰ぎ、呼吸をととのえる】

2025/10/25

秋の空は、どこまでも高く澄んでいます。
夏のあいだ空を覆っていたもやが晴れ、空気はすっきりと乾き、遠くの山並みまでくっきりと見える日が増えてきました。
見上げれば、深い青の空にうろこ雲やすじ雲が浮かび、どこか静けさとやさしさを感じさせてくれます。

秋は五行では「金」に属し、臓腑では「肺」と深く関係しています。
肺は“気”をつかさどり、呼吸によって外と内をつなぐ器官であり、また声や皮膚、免疫などとも密接な関わりをもちます。
さらに肺は、感情では「悲しみ」や「憂い」とも関係するとされます。たしかに、悲しみや不安が強いとき、私たちは自然と肩を丸め、胸をすぼめ、浅い息しかできなくなっています。
その姿勢は肺の働きを妨げ、ますます呼吸は浅くなり、心もさらに沈んでしまいます。

だからこそ、日々のなかで深く息をすること、胸を開いて呼吸することがとても大切なのです。
秋の澄んだ空を見上げると、不思議と胸のあたりがゆるみ、呼吸がふわっと広がっていくのを感じます。
深く吸って、ゆっくりと吐く。ただそれだけの動きが、こころとからだにやさしく作用し、気のめぐりを整えてくれるように思います。

漢方では「肺は気の上源」といわれ、呼吸は全身の臓器に“気”というエネルギーを運ぶ源とされています。
呼吸が乱れれば気は滞り、呼吸が整えば心身もまたととのいます。

これから本格的な冬を迎える前に、空気の変化を感じながら、手を広げ、胸を開いて、深く息を吸ってみませんか。
大いなる空に包まれているような気持ちになれたなら、それはきっと、からだにも心にも優しい、すてきな養生の始まりです。