【ブログ】【第22回 漢方歳時記 十月 ― 金木犀(キンモクセイ)の香りと秋のこころ】
2026/10/01
十月に入り、ようやく朝夕の風に秋らしさが感じられるようになりました。道を歩いていると、どこからともなく甘い香りが漂ってきて、思わず足を止めることがあります。金木犀(キンモクセイ)です。姿を見つけるより先に、香りで季節の訪れを知らせてくれる花は、そう多くはありません。
金木犀は中国では「桂花(けいか)」と呼ばれます。漢方でおなじみの桂枝や桂皮(シナモン)と同じ「桂」の字がつきますが、桂皮はクスノキ科の肉桂の樹皮、金木犀はモクセイ科の花で、まったくの別物です。それでも桂花もまた味は辛、性質は温とされ、身体を内側から温めて、冷えによる痛みや咳・痰をやわらげると伝えられてきました。中国では花を乾かした桂花茶や、白ワインに漬け込んだ桂花陳酒として親しまれています。
東洋医学で秋は「肺」の季節です。肺は呼吸をつかさどるだけでなく、感情では「悲(憂い)」と結びつくとされます。日が短くなり、木々が色づき始めるこの頃、ふと物寂しさを覚えるのは、自然の移ろいに肺が呼応しているからかもしれません。
そうした気持ちの沈みに力を貸してくれるのが「香り」です。漢方では香りのよい生薬に、滞った気を巡らせる働きがあると考えてきました。蘇葉(紫蘇の葉)、薄荷、香附子などがその代表で、気分がふさいで胸がつかえるようなときの処方に、しばしば配合されます。香りは鼻から肺へ、そして全身へと届き、固くなった気をそっとほどいてくれるのです。
金木犀の花の盛りは一週間ほどと短く、雨が降ればたちまち散ってしまいます。香りに気づいたら、どうぞ少しだけ歩みをゆるめ、ゆっくりと深く息を吸い込んでみてください。一日の中にそんな小さな「間」をもつことが、乾きやすく沈みがちな秋のこころと身体を、やわらかくほぐしてくれるはずです。

