[ブログ]【漢方歳時記 八月特別編 ― 四十度の夏を生きる知恵】

2026/08/09

今年の夏は、世界各地で四十度を超える猛暑が続き、日本でも「命に危険を及ぼす暑さ」が連日のように報じられています。かつては「暑い夏」といえば我慢できるものでしたが、今は「災害級の暑さ」と考えた方がよい時代になりました。

東洋医学では、夏の暑さを「暑邪」と呼びます。暑邪は大量の汗をかかせ、身体の熱を冷ます一方で、生命活動を支える「気」と身体を潤す「津液」を同時に失わせます。そのため、だるさ、食欲不振、頭痛、立ちくらみ、筋肉のけいれん、動悸などが起こりやすくなります。さらに高齢者では、のどの渇きを感じにくくなるため、脱水が進んでも気づかないことが少なくありません。

暑さ対策でまず大切なのは、「のどが渇いてから飲む」のではなく、こまめに水分を補給することです。一度に大量に飲むより、コップ一杯程度を数回に分けて飲む方が身体には負担が少なくなります。汗をたくさんかいた日は、水だけでなく塩分や電解質も補いましょう。

室内では、冷房をためらわないことも重要です。「冷えは身体に悪い」と心配される方もおられますが、四十度近い暑さでは、まず熱中症を防ぐことが優先です。室温は二十八度以下を目安にし、扇風機を併用すると効率よく身体を冷やすことができます。ただし、冷風を長時間身体に当て続けると胃腸が冷えたり、肩こりやだるさの原因にもなります。直接風を浴び続けないよう工夫しましょう。

食事では、西瓜やトマト、きゅうりなど身体の熱を冷ます夏野菜を上手に取り入れながら、冷たい飲み物やアイスクリームばかりに偏らないことも大切です。冷たいものを摂り過ぎると胃腸の働きが弱り、かえって夏バテが長引くことがあります。温かい汁物や熱いお茶や飲み物をを一日のどこかで取り入れるだけでも、胃腸はずいぶん楽になります。身体は冷やしても胃腸が冷えないように、寝るときもお腹だけは冷えないように守ってくださいね。

『黄帝内経』には、「聖人は天の時に従う」とあります。自然はいつも同じ姿ではありません。自然が変われば、養生の方法も変えていくことが大切です。「昔はこれくらい平気だった」という経験よりも、「今年の暑さに合わせて無理をしない」という知恵こそ、現代の養生ではないでしょうか。

今年の夏は、自分だけでなく、ご家族やご近所の高齢者にもぜひ声をかけてください。「水分は足りていますか」「エアコンはつけていますか」。そのひと言が、大切な命を守ることにつながります。