[ブログ]【第18回 漢方歳時記 六月 ― 梅シロップと紫蘇ジュース】
2026/06/01
青梅が店先に並び、赤紫蘇の束が鮮やかな色を添えるころ、季節は春から梅雨、そして夏へと移っていきます。まだ本格的な暑さには少し早いものの、空気は湿り、からだは重く、胃腸の働きもどこか鈍りがちになります。そんな六月に昔から行われてきた手仕事が、梅シロップや紫蘇ジュースづくりです。
青梅を洗い、へたを取り、氷砂糖とともに瓶に入れる。数日たつと、梅から少しずつエキスがしみ出し、澄んだシロップになっていきます。この静かな変化を眺めていると、季節を急がず待つこともまた養生なのだと感じます。梅は、古くから薬用にも食用にも大切にされてきました。漢方では烏梅として知られ、酸味によって収斂し、汗や下痢をおさめ、津液を守り、口渇を癒やす働きがあると考えられています。また、胃腸を助け、食欲を促し、疲労したからだに潤いと引き締めを与えるものでもあります。暑さに向かう季節に、梅の酸味がからだの奥をきゅっと目覚めさせるように感じるのは、こうした働きとも響き合います。
一方、赤紫蘇を煮出して作る紫蘇ジュースは、梅シロップとはまた違った魅力があります。鍋の中で紫蘇の葉が深い色を放ち、酢やクエン酸を加えると、ぱっと鮮やかな赤色に変わります。その瞬間には、梅雨の重たい空気が少し晴れるような華やかさがあります。紫蘇は漢方では蘇葉とも呼ばれ、魚の毒を消し、気鬱を晴らし、食欲を増し、汗を散じる生薬として用いられてきました。香りによって滞った気を動かし、胸や胃のつかえを開き、湿気で閉じこもりがちな心身に小さな風穴を開けてくれます。刺身に紫蘇が添えられるのも、単なる彩りではなく、香りと解毒の知恵が重ねられているのでしょう。
梅の酸味は津液を守り、紫蘇の香りは気を巡らせます。ひとつは内側を引き締め元気が漏れるのを防ぎ、ひとつは外へ向かってひらく。この二つが並ぶ六月の台所には、梅雨から夏へ向かうからだを整える知恵が詰まっています。青梅や赤紫蘇が店先に並ぶのは、ほんの短い季節です。今年はその恵みを少し手元に迎え、梅シロップや紫蘇ジュースを作ってみてはいかがでしょうか。瓶の中でゆっくり育つ梅の香り、鍋の中で鮮やかに変わる紫蘇の色を楽しみながら、来る夏に向けて、心とからだを調えていきましょう。

