[ブログ]【第16回 漢方歳時記・四月】

2026/04/01

桜が満開の時期を過ぎ、花びらが静かに散り始めるころ、花見の賑わいが去り、街の空気は少し落ち着きを取り戻します。朝夕にはわずかな冷えを感じることもあり、この季節の移ろいに、ふっと肩の力が抜けるような感覚を覚える方も多いのではないでしょうか。

 

東洋医学では、春は肝の季節とされています。肝の気は、木が外へ外へと伸びていくような性質を持っています。桜が喜びにあふれて一斉に咲き誇る姿は、まさにその象徴です。しかし、花が散るということは、気が外に広がり続ける段階を終え、次第に内へ戻っていく合図でもあります。自然は決して同じ調子で進み続けることはなく、必ず切り替わりの時を用意しているのです。

ところが私たちは、春だからとつい発散したくなり、気が内に戻ろうとする流れを無視しがちです。四月後半から五月にかけて、「疲れが抜けない」「胃腸の調子が重い」「気分が落ち着かない」といった訴えが増えるのは、そのためかもしれません。外へ向かう勢いを手放せず、胃腸の元気が取り残され、体の中に小さな滞りを残してしまうのです。

この時期の養生として、昔から大切にされてきたのが、少しの苦味をとることです。春の苦味は、外に向かっていた心を穏やかに内へ導き、余分な熱や滞りをさばく助けになります。菜の花や蕗、山菜など、ほろ苦さを持つ食材は、まさにこの季節のために用意された自然からのごちそうなのでしょう。

桜が散る様子を惜しみながら眺め、苦味を少し口に含む。そのどちらも、季節の変化を受け入れるための静かな所作です。華やかなものが終わることを無理に引き止めず、次へとつなぐ準備をする。散る季節をきちんと見送ることもまた、心身を養う大切な養生なのかもしれません。