治療の考え方
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- 心
- 肺
- 女子胞
- 脾胃
- 皮膚
- 大腸
- 鍼
- 腎
- 肝
心とは
心臓は筋肉質の臓器で血液の循環をおこなうポンプの役目を担っています。漢方でいう心は、心臓の働きを示すとともに、こころのはたらきも含んでいて、心に障害があると動悸、息切れ、不眠、多夢、不安などの症候を示します。
動悸がして眠りにくい。
神経質で胃腸が弱く、疲れやすく、ちょっとしたことで動悸がして、疲れているのに眠りにくい。このような場合胃腸を元気にする人参を含んだ漢方薬に遠志、龍眼肉、酸棗仁などの心に栄養を与えて心を安定させる働きのある生薬を加えます。代表処方は帰脾湯です。
不整脈
不整脈には治療を受けるべき不整脈とそうでない不整脈があり、まず西洋医学的検討が必要です。ドンと胸にこたえるような不整脈があり、顔色が悪く、疲れやすく、息切れがする場合。口の乾きや便秘傾向があるとき、動悸をおさめる桂枝と炙甘草、元気を補う人参に血を補う地黄、阿膠、麦門冬を加えます。代表処方は炙甘草湯です。
パニック障害
これまで元気いっぱいで、健康に自信があった人が、突然、動悸やめまいに襲われ、パニックになることがあります。健康に自信があったゆえに、なんでこんなことになってしまったのかという思いが治療を妨げます。不安を緩和する漢方、緊張をゆるめる漢方、動悸がおさまる漢方などを使います。小麦やナツメなど日常なじみのある生薬も不安をゆるめ、自律神経を安定させる作用があります。
肺とは
肺は胸腔内の大部分を占める臓器で呼吸をつかさどります。主に気道と血管からなり、気道と血管は肺胞で接してガス交換を行います。漢方でいう肺は、西洋医学の肺の働きとともに気というエネルギーを生成する働きをもち、そのエネルギーを駆動力として水の流れを動かします。また肺は皮毛を主るというように毛穴の開閉を調節し、体温や汗の調節をおこない、皮膚の働きを調節します。
気管支喘息
西洋医学的には気道の炎症が気道の過敏性をひき押し気管支喘息の原因になるといわれ、ステロイド剤、抗アレルギー剤、気管支拡張剤が用いられます。漢方では炎症を抑えるとともに、気管を広げて肺の働きを助け、気の流れを調節します。また元気を補ったり、不安を緩和したり、いろいろな側面から治療を行います。
慢性気管支炎
肺は繊細な臓器で、乾燥しやすいのです。肺が乾燥すると舌や肌が乾燥し、声がかすれます。このような場合、炎症を抑えるとともに、気管支の繊毛運動を助け、気道を潤す漢方を用います。
肺気腫
肺気腫は喫煙と関係の深い病気で肺胞が破壊的な変化を受けて、咳、痰、息切れ、動悸、浮腫などがみられます。経過とともに痩せて消耗してゆく場合があり、腎の衰えを伴う場合があり、腎を補う八味地黄丸もよく使われます。また肺を潤す沙参、麦門冬、黄精、枸杞子などを加えます。動物生薬であるヤモリも中国ではよく用いられます。
女子胞とは
漢方の用語で子宮と卵巣のことです。子宮に血をためる作用と、血を流す作用を持っています。血をためるタンクは思春期を迎えて大きくなってゆき、更年期にはタンクの内容が枯渇してゆきます。女子胞の働きは女性の成長発達と深く関係しています。
月経困難症
いわゆる生理痛のことです。月経時に下腹部痛、腰痛、頭痛などの疼痛を覚え、社会生活が困難になるほどの痛みを自覚する場合があります。漢方では当帰、芍薬、などの血を補う生薬や、川芎、牡丹皮、桃仁などの血を巡らす生薬を合わせて治療します。また桂皮や附子、乾姜などお腹を温める生薬も使います。冷えは女性の大敵、下腹や足首が冷えないように気をつけましょう。
子宮内膜症
子宮内膜症は子宮内膜とよく似た組織が子宮以外の場所でエストロゲンという女性ホルモンの働きによって増殖と剥離を繰り返す疾患です。妊娠中はエストロゲンの働きが抑えられて内膜症の症状は落ち着くのですが、少子化に伴いエストロゲンを分泌する期間が長くなっていることも子宮内膜症の原因といわれています。漢方ではストレスによって下腹部が張って痛い場合、手足の冷えが関与する場合、体力がなくて血行が悪くなっている場合など、病態によって処方を加減します。また出血が多い場合、止血作用のある漢方を併用します。
子宮筋腫
30代から40代の女性に好発するエストロゲン依存性の良性腫瘍です。閉経すると縮小します。漢方では血の流れが滞ったことにより生じるととらえて血のめぐりをよくする処方を用います。代表処方は桂枝茯苓丸です。大きくなるのを抑えて身体の調子が良くなることを目標とします。
卵巣嚢腫
卵巣内に液体や脂肪がたまる腫瘍ですが、中には充実性のものもあり、いろいろな組織形態のものが知られています。悪性のものも中にはあるので、発見されたら定期的な婦人科検診をお勧めしています。漢方医としての私見ですが、卵巣を腫らす人は、ある一定の期間、人の倍以上の仕事をしたことのある人が多いです。卵巣嚢腫があるといわれたらまず、過労がないか、自分のライフスタイルを見直していただきたいと思います。
漢方では養生を基本として、ストレスを緩和し、血を補い巡らし、痛みを緩和する処方を選びます。
脾胃とは
西洋医学でいう脾臓は人体の左上部にあり、血液の貯蔵や破壊、免疫機能の一部をつかさどっています。漢方でいう脾は西洋医学でいう脾臓とまったく異なる架空の臓器で、消化吸収を通して命をはぐくむ土のような役割を果たしています。その他、内臓が下垂しないようにとどめる作用、また血液が脈管の外に漏れださないように管理する作用もあります。胃は入れや物としての胃で、食べたものを受納し、下へ送る働きがあります。脾と胃が協力して食べ物から吸収した栄養物質を全身に配ります。
機能性胃腸症
胃のもたれや、胸やけなどの不快な症状があるにもかかわらず、内視鏡検査などをおこなっても、原因となる異常がみとめられない病気を機能性胃腸症と呼びます。西洋医学では胃の運動改善剤、胃酸を抑える薬、抗うつ薬、抗不安薬、ピロリ菌の除菌などを行いますが確固たる治療のみつからない病気です。
漢方は胃の膨らみやすさや運動を改善し、元気を補い、うつうつとした気分を改善する作用があります。みかんの皮、生姜、山椒など身近な生薬が威力を発揮します。こころの問題も関与する病気ですが、漢方には安心作用を持つものが多く、強い薬に頼らずに自分の力でこの病気と向き合う手助けをして、気持ちを楽にする効果があります。
胃重と身体のだるさ
胃腸の機能が衰えると胃が重たく感じたり、手足や身体が重くだるく感じたり、元気が出ない状態になります。漢方では脾は消化吸収全般を主っており、脾が弱ると元気がなくなります。人参や甘草、白朮、茯苓、生姜、ナツメなどを用いて胃腸の元気を取り戻し、身体を元気にします。このように元気を補う作用を漢方では補気作用と呼んでいます。西洋医学の薬は胃酸を抑えたり、消化を助ける薬はありますが、胃腸の元気を調えて身体を元気にする作用はありません。胃腸が弱く、元気がないと感じている方は是非漢方を試していただきたいと思います。
皮膚とは
人の皮膚は体重の6~7%を占め、人体で最も大きな器官で身体を包み外界から保護し、汗腺によって身体の水分や体温調節をし、物質の選択的な透過性を持ち、感覚器官として外部からの刺激を受容し、紫外線を受けてビタミンDの生合成をおこなっています。漢方では皮膚は内臓の鏡といわれ五臓や脳を含めた身体全体の機能と密接な関係を持っています。
尋常性乾癬
表皮の角化異常で起こる疾患で、皮膚の表皮をつくるスピードが正常の10倍以上の速さに亢進し、角化が亢進することによって、病変部は周りよりも少し盛り上がり、大きな紅色局面を形成します。漢方では血を補う生薬の組み合わせをベースに、血の熱を冷ます生薬、清熱解毒の生薬を組み合わせて処方します。病状の軽重に差がありますが、漢方処方の効果が期待できる疾患です。
アトピー性皮膚炎
アレルギー反応によって皮膚に炎症を起こす過敏症の一つで日常的な疾患でありながら、原因が解明されていない疾患です。乳幼児期、学童期には関節の内側を中心に、発症し、耳切れを呈し、年齢を重ねるにしたがって次第に広範囲に乾いた慢性湿疹の症状を呈し、強い痒みを伴います。
1)アトピー性皮膚炎の漢方治療
いくつかの治療戦略があります。肺と胃腸の機能を高めてこどもの成長発達を援助しながら治してゆく方法、皮下の熱を冷ましながら皮膚を潤す作用をもつ石膏という生薬使うやりかた、ストレスによる熱を清解してゆくやり方、清熱解毒の生薬をしっかり使って炎症を抑えてゆくやり方、生まれつきの元気を補い、治る力を補うやり方、肺を潤すことによって皮膚を潤してゆくやり方、身体の免疫力を高めて治る力を援助してゆくやり方などを駆使して治療にあたります。
2)アトピー性皮膚炎とステロイド外用薬
当院では開業して5.6年は原則ステロイド外用薬を使わない治療をしていましたが、現在ではアトピーにステロイドの外用薬を使うか使わないかは患者さんと相談の上、決めています。最近は、必要な時はしっかり使った方がいいと考えています。ちょこちょこ塗りはやめて、使うべき時にはしっかり使って炎症をおさめ、休薬期間を設けたのち、また使うときはしっかり塗るという治療戦略をとっています。このやり方によってステロイドが離脱できているかたもいらっしゃいます。外用の記録をつけていただくことでどの程度塗ってどのような状態かが自分でわかるようになり、セルフコントロールへの道筋が見えてきます。
大腸とは
大腸の主な機能は消化が難しい食物繊維の発酵と水分と塩分の吸収です。また残りかすから大便をつくり体外へ排泄します。漢方でもそのはたらきは同じで、大腸機能の低下によって下痢、便秘、お腹の張り、下腹部の痛みなどが生じます。また肺と大腸は表裏の関係といわれ、肌の状態は肺と関係が深いので、例えば便秘があると、吹き出物ができたり、肌が荒れやすい状態になります。
過敏性腸症候群
腹痛を伴う下痢、便秘、下痢便秘の交代、ガス過多による下腹部の張りなどの症状がありますが、検査をおこなっても炎症や潰瘍などの病気が認められないものは過敏性腸症候群と診断されます。セロトニン受容体拮抗薬、抗コリン薬、消化管運動調節薬、乳酸菌製剤などが使用されますが治療に難渋することも多いです。病状によっていろいろな漢方を組み合わせて処方しますが、ストレスや痛みに過敏になっていることも多いので、症状に一喜一憂せず日常の暮らしのなかでうまく病気と付き合う気持ちが大切です。腹痛をとり、お腹の冷えを改善し、便通を調節し、ストレスを緩和する漢方を組み合わせて処方します。
潰瘍性大腸炎
主として大腸に炎症をおこす自己免疫性の病気で、粘血便、下痢、腹痛をきたします。重症化すると発熱、体重減少、貧血を伴います。西洋薬はステロイド剤などの免疫抑制作用をもつ薬や、白血球除去療法、分子標的治療が用いられます。
漢方では青黛という生薬が効果を発揮します。ただし青黛は冷やす作用がつよいので胃腸を温める生薬を併用したり、ストレスの緩和、自律神経の調節、腹痛の緩和などの効果をもつ漢方処方を併用します。長時間労働や、睡眠不足など無理がたたると悪化する病気なので、計画的に休養をとることが大切です。
当院の鍼治療について
当院では応急的に処置が必要な場合、緊急避難的な鍼をする場合があります
胸痛
胸の痛みが続き、循環器内科で精査しても異常なく、呼吸器科や整形外科でレントゲンをとっても原因がわからず、特に病気ではないから心配ないといわれて途方にくれてこられる患者さんがおられます。肋間神経痛といわれて痛み止めだけ出される場合があります。このような場合、背中の凝りをみてみると痛い箇所の裏がわに強いこりをみとめることが多いのです。漢方も処方しますが、背中の凝りを鍼でとってあげるとその場で痛みがとれることがあります。
長引く咳
風邪を引いたあと、咳が止まらないというのはよく経験します。咳止めをながなが飲んでも一向に改善しないと訴えます。あまりに咳が続くと胸部の肋間筋に凝りが認められます。肩こりではなく、胸凝りです。肋間筋に鍼をすると息がしやすくなり、咳の頻度が顕著に減少します。下に肺があるので深い鍼は禁忌で浅くやさしい鍼をします。
顔面神経麻痺
ヘルペスウイルスによるもの、突発性のものなど、原因はいろいろでも、西洋医学的治療に加えて、当院では、必ず、漢方と鍼の治療をします。 特に鍼治療は極めて有効なので、これが標準治療にならないのは、とても残念に思っています。顔面神経麻痺になったら、鍼治療の併用をお勧めします。
腎とは
西洋医学でいう腎臓はそら豆のような形をした握りこぶしくらいの臓器で、腰のあたりに左右対称に二個あります。血液をろ過して老廃物や尿を身体の外に捨てる働きをしており、血圧を調節したり、血液をつくる指令を出したり、骨をつくるビタミンD活性化する働きがあります。漢方でいう腎はそのことに加えて、生きる力を蓄える重要な臓器です。胃腸の消化の働きによって吸収された栄養物質は腎臓に蓄えられて生きる力を補います。加齢や過労によって腎に蓄えられた元気が消耗すると耳が聞こえにくくなり、耳鳴りを起こし、足腰のだるさや膝の痛み、冷えや性機能の減退をきたします。また水の代謝を調節するので、機能が衰えるとめまいや浮腫をひきおこします。
腰痛
腰痛は筋肉や骨の傷害によっておこる整形外科的な問題のほかに、腎の衰えによっても起こります。最近、足腰が弱り、腰や膝が重くだるいとおもったら腎の衰えが関係しているかもしれません。
このような時は、地黄や山茱萸や山薬などの腎を補う生薬に加えて冷えを改善する桂枝や附子を含む処方、たとえば八味地黄丸などを使用します。
耳鳴り、難聴
加齢によっておこることが多い症状です。西洋医学の治療だけではなかなか改善しません。治療が難しいのは同じなのですが、これも腎の働きを助けると改善することがあります。長い時間かかってでてきた症状ですからあきらめずにじっくりと漢方薬を服用していただきたいと思います。
下肢の浮腫
まず西洋医学的に診断することが重要ですが、腎の衰えによって足がむくむことはよくあります。重力の働きによって水は下にたまりやすいので腎の温める力を後押しする桂枝や附子といった生薬を使います。静脈のうっ血をともなうことも多いので牡丹皮などの血のめぐりをよくする生薬を加えます。さらに利水を助ける車前子や茯苓、沢瀉といった生薬を用います。代表処方は牛車腎気丸です。
不妊症、月経不順
不妊症や月経が不順で遅れがちといった場合に、腎の衰えが関与している場合があります。気や血を補う薬とともに腎を補う薬を併用するとうまくゆく場合があります。
肝とは
西洋医学でいう肝臓は腹部の右上に位置する人体で最大の内臓で生体の内部環境の維持に大きな役割を果たしています。食物を消化する胆汁酸を生成し、糖や脂質、たんぱく質の代謝を調節し、エネルギーをつくる生体の中の一大化学工場です。漢方での肝は全身の気血を巡らせ調節する働きとともに、脳の機能の一部、意識の明暗や感情を調節する機能を担っています。また筋や筋膜を栄養し筋肉の緊張度を調節する働きがあります。
自律神経失調症
肝は自律神経の働きを調節しています。木がのびのびと枝を伸ばすように、気や血を身体の隅々まで運ぶのを助けます。ストレスがあると肝がのびのびとできなくなり、目がピクピクとけいれんしたり、イライラしたり、ご飯が食べれなくなったり、血圧があがったりします。ストレスが緩和し、肝がのびのびとできるように、柴胡、芍薬、甘草、枳実などの生薬をあわせて使います。
チック
肝は筋肉の緊張度を調節する働きがあります。肝は血を蔵すといわれるように血を補う作用のある当帰や芍薬などの生薬をつかうと筋肉がリラックスして手足が滑らかに動くのを助けます。さらにストレスを緩和する柴胡や、釣藤鈎や白僵蚕などピクピクを治す生薬を加えます。
胆石
胆石のつくられる胆嚢は肝と表裏の関係、胆石が胆嚢の道を塞ぐと胆汁がうっ滞して肝臓の働きも阻害されます。このような時は茵蔯蒿、山梔子、大黄などの生薬を用いて胆汁のうっ滞を除きます。大黄は下剤としての効果とともに利胆作用、消炎作用、抗菌作用、鎮静作用などの薬効を持ち、胆石の治療にも欠かせない生薬です。