[ブログ]【第21回 漢方歳時記 九月 ― 秋は来たのに、夏が去らない】

2026/09/01

九月。暦の上ではすでに秋ですが、外へ出ると強い陽射しが照りつけ、蝉の声もまだ聞こえてきます。朝夕にはわずかに秋の気配を感じる日があるものの、日中は真夏のような暑さが続き、「秋は来たのに、夏が去らない」と感じる方も多いのではないでしょうか。

東洋医学では、季節は暦に従って移り変わります。立秋を過ぎれば秋となり、養生の主役は「肺」へと移ります。しかし今年のように残暑が厳しい年は、夏の「暑邪」が残ったまま、秋の「燥邪(乾燥)」が少しずつ加わってきます。汗をかいて体内の潤いを失う一方で、乾いた空気や冷房によって、のどや鼻、皮膚はさらに乾燥しやすくなります。

そのため、この時期は、のどの痛みや咳、声のかすれ、皮膚のかゆみ、目の乾きなどが起こりやすくなります。夏の疲れが抜けないまま、秋の乾燥も加わることで、体調を崩す方が少なくありません。

養生の基本は、「まだ夏だから」と油断せず、「もう秋の準備を始める」ことです。水分補給は引き続き大切ですが、冷たい飲み物ばかりでは胃腸を弱らせてしまいます。常温や温かい飲み物を上手に取り入れ、梨、れんこん、百合根、白きくらげなど、身体を潤す食材を食卓に加えてみましょう。十分な睡眠をとり、朝夕の少し涼しい時間に散歩をすることも、肺の働きを整える助けになります。

『黄帝内経』には、「秋三月、これを容平という」とあります。実りの季節を迎え、心身を落ち着かせ、冬に備えて気を収める時期という意味です。しかし近年は、気候の変化によって季節の境目が曖昧になってきました。それでも自然の変化を感じ取り、その時々の環境に合わせて暮らし方を調えることが、東洋医学の養生の基本であることは変わりません。

秋は確かに来ています。ただ、その歩みは以前よりゆっくりになりました。季節を暦だけでなく、自分の身体の声にも耳を傾けながら、この長い残暑を上手に乗り越えていきましょう。