[ブログ]漢方歳時記 五月 ― 菖蒲の香りと気のゆらぎ

2026/05/01

五月五日、端午の節句には菖蒲湯に入る習わしがあります。湯に浮かぶ菖蒲の清々しい香りは、身体だけでなく、どこか心の奥にも風を通すような感覚をもたらしてくれます。古くから菖蒲やよもぎは邪気を祓うものとされてきましたが、その意味は現代にも通じるものがあります。

この時期は、新しい環境や人間関係の変化がひと段落する頃です。一見落ち着いたようでいて、実は知らず知らずのうちに緊張や気疲れが積み重なり、気分が晴れない、やる気が出ないといった状態に陥ることがあります。いわゆる五月病で、漢方では「気鬱」ととらえます。

さらに季節は、春の軽やかさに湿気が加わる頃です。湿は重く停滞する性質があり、気の巡りを妨げます。内には気鬱、外には湿邪というかたちで、心身は滞りやすくなります。

菖蒲は、生薬としては石菖蒲に代表され、「化湿」「開竅」「醒神」といった働きをもつとされます。すなわち、こもった湿を払い、ふさがった気の通り道をひらき、意識や気分をすっと目覚めさせる力です。その香りが胸の奥に届くと、重だるさや気の詰まりがほどけていくのを感じることがあります。

菖蒲湯に浸かるという行為は、こうした薬能を穏やかに身体に取り入れる養生でもあります。皮膚から、そして香りを通して、知らず知らずのうちに滞りを動かしていくのです。

気分が晴れないとき、気持ちだけが焦り、身体は取り残されます。まずは香りや風に身をゆだね、巡りを取り戻すこと。菖蒲の香りに包まれながら、滞った気と湿をほどき、軽やかな初夏へと歩み出したいものです。